工大生のメモ帳

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世界の終わり、素晴らしき日々より 感想

【前:なし】【第一巻:ここ】【次:第二巻

※ネタバレをしないように書いています。

この世界は残酷で、美しい。

情報

作者:一二三スイ

イラスト:七葉なば

ざっくりあらすじ

敵対する近隣国『高国』との開戦直後、突如として人類のほとんどが消えた”終わってしまった世界”。その世界で出会ったコウとチィ。二人の少女は古いトラックに乗って旅に出た。

スケッチブックを手放さない人見知りのチィ

拳銃片手に皮肉屋のコウ

チィの実家を求めてひた走る。手がかりはチィのスケッチブックに描かれた一枚の絵のみ。

そんなある日二人がたどり着い街。そこには高国の軍人が潜んでいた。

この世界にあるのは希望か、絶望か。

感想などなど

この作品、タイトルとあらすじ、表紙から「二人の少女が崩壊した世界を旅する少女〇末旅行的な作品」を想像していた。そういったディストピア的世界観を期待していると肩すかしを食らうかも知れない。

どちらかというと戦争の後、生き残った人達の争いが中心となっていく。硝煙の匂いと崩壊の進んだ町並み。好きな人は好きそうな世界観となっている。

戦争が終わったと先ほどは書いたが、実際は世界の人類が突如としていなくなったという奇妙な事件から数年が経過した世界が舞台となっている。どういう状況だ? コウとチィはいるじゃんと思うかも知れないが、そこは気にしてはいけない。

そこらへんの謎はほんの少ししか明かされていない。何も分からないと言っていい。登場人物の誰もが何故人類が消失したのか気になってはいるものの、誰もが生き残ることに必死であって、それどころではない感じである。一巻のメインは世界観とコウとチィの関係性の説明が中心となっている、ということなのだろう。

崩壊していて、人のいない崩壊した世界の雰囲気は文章でよく表現されている。その世界を懸命に生きる二人の生活が淡々と、しかしギリギリの物語が描かれている。

 

さて、旅の目的はチィの実家に送り届けるというものである。

実家の場所の手がかりはチィの持っているスケッチブックに書かれた一枚のイラストだけで、ただでさえ崩壊していて世界は変わってしまっているのだが、果たしてたどり着けるのだろうか。

実家……この世界は崩壊が進んでいる。チィは叔父さんに会いたいらしいが、果たして生きているのだろうか。

生きていたとしても、会ってそこからどうするのだろうか。チィと叔父さんの二人で生きていくのだろうか。

コウとチィはそこでお別れなのだろうか。

彼女たちは何も分かりません。読者である自分たちにだって分からないでしょう。この問題が物語り全体を通して問いかけられ、ずっと迷い続けています。

コウもチィも自分はどうするべきなのだろうか、と。答えてくれる人なんて誰もいません。どんなに嫌だと思っても、選択の時はやって来てしまいます。

その迷いがあるからこその最後の選択なのだろうと思う。ずっとずっと考え続けて来たからこそ、最後のシーンがかなり心に響いてくるのだ。

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